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寛永寺谷中霊園の徳川将軍家御裏方霊廟と仮面ライダーV3の秘密

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寛永寺谷中霊園内墓域(2007年頃)

運良く抽選に当たり、寛永寺の特別参拝に参加することができた。
寛永寺の徳川将軍霊廟は月に数回しか公開されておらず寛永寺のホームページを見ても参加締切となっていることが多い。
とても貴重な機会に恵まれたわけである。
参加してみてひとつ気になることがあった。
それは、将軍の正室の墓の件である。
正室とは高貴な人物の正式の妻のことであるが、参拝したエリアには将軍の正室の墓が二基しかなかったことである。
特別参拝の見学エリアは常憲院殿御霊廟、つまり第5代将軍徳川綱吉の宝塔がある区域である。
その墓域にある宝塔は、将軍とその正室に限定すれば以下の通りとなる。
有徳院(第8代将軍徳川吉宗)
温恭院(第13代将軍徳川家定)
天璋院(第13代将軍徳川家定の正室)
常憲院(第5代将軍徳川綱吉)
浄光院(第5代将軍徳川綱吉の正室)
温恭院と天璋院は隣同志に並んでいるが、浄光院は常憲院から離れた場所にあり、平成元年に谷中霊園内にある徳川将軍家墓所から移転してきたものである。
ガイドしてくれたお寺の住職さんによると、徳川将軍の時代には妻と一緒の墓に埋葬されることはなく、別の墓に入るのが普通だったとのこと。

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『東叡山寛永寺 徳川将軍家御裏方霊廟』

徳川将軍の正室の墓について調べていく過程で見つけたのが、寛永寺谷中徳川家近世墓所調査団(編)(2012)『東叡山寛永寺 徳川将軍家御裏方霊廟』(吉川弘文館)、という書籍だった。
この書籍によると、2007年から2008年までの約1年5カ月をかけ徳川将軍家御裏方霊廟の発掘調査が行われ、3年3カ月を費やして調査結果がまとめられたという。
早速手にとって見てみたいという気になったが、限定販売であるうえに、価格が3巻セットで税込162,000円である。
したがって図書館で閲覧することにした。
分かったことは、徳川将軍家御裏方霊廟は、谷中霊園内の寛永寺の墓所の中にあるということである。しかし、発掘調査終了後は更地となり現在では一般墓所として分譲されている。
つまり、徳川将軍家御裏方霊廟は写真の中でしか見ることができないのである。
写真は確かに本に載っているが、霊廟に生えている草や木がきれいに刈り取られている。発掘調査の準備のためだろう。
そんな時にある情報をインターネット上で入手した。

仮面ライダーV3 第52話

仮面ライダーV3の第52話のロケが寛永寺の徳川将軍家御裏方霊廟で行われたということである。
早速DVDを入手してみると、確かに徳川将軍家御裏方霊廟が写っている。それに加えて、JR日暮里駅の芋坂跨線橋まで写っている。
撮影が行われたのは、仮面ライダーV3の52話、つまり最終回の放映前一カ月前ぐらいと仮定すると、1974年の1月あたりと思われる。

枯れ草が生い茂り、枯葉が地面に落ちている状況から冬であることは間違いない。本に載っている写真のようにきれいに草木が刈り取られておらず、荒涼たる雰囲気が横溢している。
もし、この時代に谷中霊園を散歩していて、この徳川将軍家御裏方霊廟に迷い込んだなら、異界の森に巨石が乱立する光景に圧倒されるに違いない。

仮面ライダーV3ではどの宝塔が撮影に使われたのか?

寛永寺の谷中霊園内の墓所には、複数の宝塔が建っていた。
一見すると、どの宝塔も同じように見える。しかし宝塔の笠の部分に注目すると、4角形の笠と、8角形の笠の宝塔に分けられる。仮面ライダーV3の53話に登場する宝塔は8角形の笠である。
すると、墓域に存在する主要な宝塔7基から4基に絞り込める。
その4基とは以下の通り。
・心観院墓(第10代徳川家治正室)
・高巌院墓(第4代徳川家綱正室)
・宝樹院(第4代徳川家綱生母)
・浄観院(第12代徳川家慶正室)
以上が8角形の笠の宝塔である。

以下の略図は寛永寺内の徳川将軍家御裏方霊廟の宝塔配置図である。この記事の冒頭に乗せた航空写真からも不定形の土地が確認できる。(御隠殿坂の西側)

谷中霊園内 徳川将軍家奥裏方霊廟 宝塔配置図

A:浄観院

B:高巌院

C:貞明院

D:證明院

E:澄心院

F:心観院

G:宝樹院

この墓域に建つ宝塔の中でのどれか1つを特定する手がかりとしては、宝塔の塔身の模様である。桟唐戸と呼ばれる前面の部分だが、この模様が4基ともすべて異なっている。

確認していくと、高巌院墓の桟唐戸の模様が仮面ライダーV3の第53話に登場する宝塔に一致していることがわかった。輪宝と呼ばれる丸い模様が2個精緻に掘られているのはこの図のB地点の高巌院墓のみである。輪宝は宝塔を正面から見て中央に位置する。

高巌院墓 宝塔

上記の写真は、高巌院の宝塔だが調査時点では、Aの請花は欠損している。また笠の部分の欠損Bおよび石柱の柵の欠損Cは仮面ライダーV3の53話の映像でも確認できる。

笠の頂点にある宝珠と呼ばれる部分の請花と呼ばれる花びらの部分が調査時には一部欠損しているが、仮面ライダーV3撮影時には欠損はなかったと映像を見る限りでは判断できる。
また笠にある傷の位置、宝塔を囲っている石の柵の欠損状態も『東叡山寛永寺 徳川将軍家御裏方霊廟』に載っている写真と一致していることが確認できた。

興味のある方は、是非『東叡山寛永寺 徳川将軍家御裏方霊廟』と仮面ライダーV3の第53話を見比べてみてほしい。DVDはネットで簡単に入手可能である。
他にも色々と発見があるはずである。

参考資料としては、『東叡山寛永寺 徳川将軍家御裏方霊廟』が最もすぐれているが、他にもあるかもしれないと思い国会図書館のデジタルライブラリなどを探したが見つからなかった。

増上寺の徳川将軍家霊廟

芝増上寺も徳川家の菩提寺であり、壮麗な霊廟があった。場所は現在のプリンスホテルがある場所である。ここでは昭和33年に発掘調査が行われ、調査記録がまとめられている。

鈴木尚・矢島恭介・山辺知行 編(1967)『増上寺 徳川将軍墓とその遺品・遺体』(東京大学出版会)という書籍である。

発掘調査後は増上寺の西側に霊廟は一箇所にまとめられているし、一般公開もされているので見学してみたが、発掘調査は仮面ライダーV3の撮影よりもかなり前(昭和33年)の話になるので、増上寺の霊廟であるとは考えらない。実際に宝塔の模様を見ても一致するものは皆無である。また宝塔自体が寛永寺のように独立して、距離を置いて配置されていない。

また増上寺西側の墓域以外の場所にも宝塔は移設されている。例えば清瀬市の長明寺などである。そこにある正室の宝塔は以下の2基である。

6代将軍徳川家宣正室 天英院
11代将軍徳川家斉正室 廣大院
この2基の宝塔の笠は8角形だが塔身の模様から明らかに高巌院墓とは異なる。

仮面ライダーV3の53話は1970年代の寛永寺徳川将軍家御裏方霊廟を映像として見ることができる唯一の貴重な映像資料と言える。生い茂る木々と枯れ草の中に昂然と立つ宝塔群は、今となってはイマジネーションの世界になってしまったが、今回取り上げた2つの資料はそんなイマジネーションを大いに刺激する素材としてと価値あるものである。

なお寛永寺徳川将軍家霊廟は、二箇所ある。

一之御霊屋((四代家綱公・十代家治公・十一代家斉公)
二之御霊屋(五代綱吉公・八代吉宗公・十三代家定公)

特別参拝で見学できるのは常憲院殿御霊廟つまり二之御霊屋のみであり、一之御霊屋(厳有院殿御霊廟)は非公開である。ただし、一之御霊屋鶯谷駅の南口の裏手の森の中に宝塔の笠はかすかに見える。誰のものかは不明ではあるが、、、寛永寺徳川将軍家御裏方霊廟は元の場所にはもう存在しない。どこに移設されたのかも不明である。今となっては想像の世界にしか存在しないのだ。

ひょっとして一之御霊屋へ移設されたのかもしれないと思ったりするが、真偽のほどは不明である。

鶯谷駅まえから寛永寺の一之御霊屋を望む 微かに宝塔の笠が見える。

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