TikTokを見てただけなのに、人生みたいな1日になった
朝起きて、寝ぼけたままTikTokを開いた。
出てきたのは、「えっほえっほえっほ…」とだけ繰り返す意味不明な音声に合わせて、ウサギみたいな何かが揺れている動画。たぶん何も考えずに投稿したんだろうけど、なぜか2万いいねがついている。
「えっほえっほ」という音が脳内をループするなか、次に表示されたのが、アニメ『アオのハコ』の考察動画だった。「千夏先輩の目線には深い意味が…」と熱く語られていたけど、僕の耳にはえっほえっほしか残っていない。
その次に出てきたのは「胡蝶しのぶ」の動画…と思ったら、動きがおかしくて「故障しのぶ」って書かれていた。キャラが突然バグったような表情をしていて、それが妙にツボに入る。
もくじ
うどんを茹でながら、TikTokを眺める
キッチンに移動して、冷蔵庫に残っていた冷凍うどんを茹でる。
検索した「かけうどん レシピ 簡単」でヒットした動画では、めんつゆをお湯で割って卵を落とすだけ。拍子抜けするくらいシンプルだが、なぜか再生数は120万回。
湯気が立つ中、ふと見たTikTokには「おぱんちゅうさぎ一番くじ」が“秒で売り切れた”という投稿が流れていた。ローソンで並んだのに買えなかったという悲劇的な内容なのに、BGMが「えっほえっほ」だったせいで、なんだか笑ってしまった。
えっほえっほの呪い
ここまで来ると、もう“えっほ”が止まらない。
気づけば、「上田と女が吠える夜」の切り抜き動画が再生され、「イカゲーム」のあのだるまさんが転んだのシーンがループしている。全然つながってないはずなのに、なぜか頭の中ではひとつの物語のようになっていく。怒鳴り合う女性たちの声と、静寂から一気に始まるゲームの殺伐感がなぜかマッチする。
…と、ここまで書いたところで、うどんを食べ終えた。
でも、TikTokのアルゴリズムはまだ止まらない。
クレーンゲームとおぱんちゅうさぎの、ちょっと切ない午後
昼過ぎ。仕事の合間にふと立ち寄ったゲームセンターで、やたらと目に入ったのが「おぱんちゅうさぎ」のぬいぐるみだった。
ローソンの一番くじは買えなかったけど、ここには並んでる。しかも、クレーンゲームの中に。
TikTokでは、「おぱんちゅうさぎ一番くじ、秒で消えた」という動画がバズっていた。誰かが撮った、棚が空っぽのローソンの映像に、「まじで無理」って文字と悲しいBGMが流れていた。でも私は今、そのおぱんちゅうさぎを前にしている。
クレーンを見つめると、なぜかBGMが脳内で再生された。「えっほえっほえっほ…」。もはや、幻聴に近い。これはもう取るしかないと思い、財布から100円玉を出す。
アームが、微妙にずれる。惜しい。2回目も同じ。3回目、爪が引っかかったのに、ぬいぐるみが「おぱんちゅ〜…」とでも言いそうな顔で、すり抜けて落ちた。たぶんこれは仕様だ。
結局、千円を投入して何も取れなかった。近くにいた小学生らしき子が、私のプレイを見ていた気がする。それが地味に効く。
恥ずかしさと悔しさで早足にゲームセンターを出たあと、TikTokを開いたら「クレーンゲームで大勝利」みたいな動画が流れてきて、ちょっと泣きそうになった。
午後の街はやけにまぶしい。おぱんちゅうさぎはそこにいなかったが、「失敗した自分」とだけは確かに一緒にいた。
イカゲームとリングガールの結婚式が始まった夜
夜になって、スマホを片手にソファに沈み込む。特に理由はないけど、TikTokをまた開いた。
出てきたのは、誰かが編集した『イカゲーム』のパロディ動画。例の「だるまさんが転んだ」の人形の声が、なぜか「おめでとうございます、指輪を運びます」と言っていて、よくわからないけど笑ってしまった。
その直後に流れてきたのが、結婚式のリングガールの映像だった。小さな女の子がフリフリのドレスで真剣な顔をしてバージンロードを歩く。途中で転んで泣きそうになるけど、持ち直して指輪を届ける。会場から拍手が起こる。
イカゲームとリングガール。命がけと純真無垢。
さっきまでクレーンゲームでおぱんちゅうさぎを取り損ねていた人間が、そんな対極の世界をスマホの中で行き来している。
そして、画面の右下には「#結婚式」「#リングガール」「#イカゲームでプロポーズ」とタグが並ぶ。どうやら本当に、イカゲーム風の演出で結婚式をやった人がいたらしい。
こんなにも情報が交差する時代に、ついていけているのか自分でもわからない。でも、次から次へと動画を見てしまう。
TikTokとは、ただの映像アプリではない。
感情のジェットコースターに、無理やり乗せられる装置なのかもしれない。
と、かっこよくまとめようとしたけど、その直後に「上田と女が吠える夜」の切り抜きが流れてきて、なんかもうすべてが台無しになった。
今日好きニュージーランド編を見て泣いた、かけうどんの夜
寝る前に何か見ようと思って、ふと再生したのが「今日、好きになりました。ニュージーランド編」だった。
普段なら流して見る程度の恋愛リアリティ番組だけど、その日はちょっと違った。出演者たちが言葉を選びながら気持ちを伝える場面で、不意に泣きそうになったのだ。
たぶん、それまで見てきたTikTokの情報量が多すぎて、感情の受け皿がガラ空きになっていたんだと思う。
イカゲームで笑い、リングガールで感動し、クレーンゲームで敗北し、えっほえっほで脳が揺れていた状態のまま、「好きです」と告白されれば、そりゃちょっと涙も出る。
冷蔵庫に残っていたうどんをもう一度茹でた。
さっきと同じレシピ、めんつゆと卵だけの簡単かけうどん。でも、今度は少しだけ、心に染みた。
画面の中では、若者たちがニュージーランドの風景のなかで恋をしている。
私はかけうどんをすすりながら、「今、自分がいるこの部屋も悪くないな」と思った。
SNSやTikTokに振り回された一日だったけど、終わり方としては、案外いいかもしれない。
GW初日のまとめ
こうして、1日のあいだに見た動画を振り返るだけで、「アオのハコ」「イカゲーム」「故障しのぶ」「リングガール」「おぱんちゅうさぎ」「かけうどん」まで、何気なく全部を見ていたことに気づく。
TikTokのすごいところは、意図しなくてもトレンドに巻き込まれていくこと。
そして、どんなに意味不明な動画でも、気づけば「えっほえっほ」と口ずさんでいる自分がいるということ。
たぶん明日もまた、同じようにして始まるのだろう。
えっほえっほで始まり、かけうどんで終わる一日が。
本当にTikTokを見てただけなのに、人生みたいな1日になってしまったGW初日だった。
プライバシーを彩るセリアじゃなくて、TIKTOK!
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