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終幕の呑んべ横丁:葛飾立石・70年の歴史に幕

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東京,葛飾区立石駅周辺の再開発事業の話がちらほらと聞かれ始めたのはもう15年以上前の話である。70年の歴史を持つ立石、呑んべ横丁という一角は、まさにその開発区域のど真ん中に位置するが、2023年の7月から8月にかけて、ほとんどの店が移転、閉店する。そんな立石の最後の日々に密着取材をした番組、「ドキュメント72時間 葛飾立石・呑んべ横丁 幕を閉じる最後の日々飲んで歌って笑い合う」という番組が、2023年7月28日金曜、夜10時45分からNHKで放送される。貴重な立石の映像による記録番組となるので、この土地に思い入れのある人たちは、必見の番組なので、ぜひ、録画するなりして保存することをお勧めする。

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立石らしさとは何だったのか?

そもそも、東京葛飾区の京成立石駅周辺には、情緒あふれる商店街が広がっていたが、そこを更地にして葛飾区役所を移転し、高層マンションを建てるという話になれば当然反対の声もあがるのは無理もない。

開発のコンセプトとしては、災害に強い町づくりを進めるにあたって、狭い路地や、古い木造家屋の多いこの地域は危険度が高いので、建て替えを要するということだった。

だが、開発に反対する側としては、狭い路地や、古い木造家屋の店舗こそが、立石らしさであり、ぜひ何とかして、この街並みを残せないだろうかという思いがあった。

SCRAP&BUILD(スクラップ アンド ビルド)という言葉をよく耳にするようになったが、もともとこれは、チェーン店などの経営手法であり、利益をあげるためには、新しい建物を建てて、利益があげて、それを壊して、また新しい店舗などをつくるということを意味する。本質的に、リニューアルとか、リノベーションという言葉とはことなる。神宮外苑の再開発、および神宮球場の建て替えなどにたいして反対の意見があがっているが、これもスクラップ&ビルドという手法による利潤追求に対する懐疑から発生しているといえるだろう。

建物が老朽化して、危険なら、リフォームなり、改修をして頑丈にすればよいはずだが、スクラップ&ビルドはそうではない。

町そのものを根本的に更地にして新しい建物を建てるのだから、リフォームやリニューアルは問題外の話になってしまう。

さきほど述べた立石らしさを残した都市開発というコンセプトは、スクラップ アンド ビルドのコンセプトと相反するものだからだ。

あるお店があったとして、そこにビルを建てるから、立ち退いてほしいと言われ、いくらかのお金をもらったとする。しかし、立ち退いた先には何があるだろうか?商店街の路面店が新たに建設されたビルのテナントに入ったとして、一応表向きには店舗は存続するだろう。しかし、~らしさを残した移転は極めて困難だ。

たとえば、立石の呑んべ横丁の入り口に「鳥房」という名店がある。以下の写真のような佇まいである。2018年11月に撮影したものである。左の細い路地を曲がると呑んべ横丁は目と鼻の先である。

立石 鳥房 2018年11月撮影

しかし、このお店をどこかほかの場所に移転させても、もとの立石らしさを残した移転は極めて困難である。場所には、その場所特有のアンビエントがあり、そのアンビエントと一体となって、その店らしさをかたち作っているからだ。その場所特有のアンビエントを伴った移転を考えても、そう簡単に移転先などはみつかるものではない。

移転または、閉店、あるいは、納得のいく移転先がみつかるまでの一時閉店という選択肢があるが、このお店のとった選択は、2023年7月に見たお店からのお知らせの張り紙の通りである。内容はシンプルだが、とても奥の深い貼紙である。

写真で載せたほうが活字でここに文字を載せるよりもその感慨がよく伝わると思われるので、写真をのせることにする。

鳥房の店舗わきに貼られていた小さな一枚の貼紙

北口再開発により八月末日をもって閉店いたします。長い間ありがとうございました。新店舗開店までの間しばらくお休み致します。ありがとうございました。鳥房

移転するのは簡単かもしれないが、納得のいく移転はそう簡単ではなく、それをよくわかったお店らしい貼紙だとおもう。

閉店の貼紙は立石の町中のいたるところに目にするが、移転先がみつからないので、いったん閉店しますといった内容の掲示が多い。こんなところにも立石らしさが表れている。

失われていくものの美のようなものがこの町にはある。

次の50年でいったい立石はどう変わるのか?

立石の呑んべ横丁は70年前に、立石デパートとして開業したらしいが、その呑んべ横丁が消滅し、人々の記憶や映像の中の存在となったあとでも、時間は先へ先へと進んでいくが、50年後の葛飾区立石はどうなっているのだろうか?

過去の50年間という時間を知った今から、立石の50年を振り返ることはできるが、50年後の立石に住んだり、立石を訪れた人々の視点からは、今という時はすでに50年前になっている。その時、今と同じように感慨深く過去の50年を振り返ることができるのだろうか?

街並みは変わっていくが、変わらないものがそこにはあって、それが世代を超えて受け継がれていくことによって街並みという独特の情緒がうまれて、世代と世代のつながりがうまれる。今を生きる人がいればこそ、未来を生きる人がいるのだ。

そんななかで、面白いというか、極めて感慨深い閉店のお知らせの貼紙に出会った。

それは、立石の関所の異名を持つ、「江戸っ子」というお店である。先ほど述べた鳥房のわきの路地を歩いていくと立石7丁目のバス停留場に出るのだが、そのすぐ手前、鳥房から歩いていくと右側にあるもつ焼きの路面店で、この店も50年の歴史を持つ。

*江戸っ子というお店は、「江戸っ子」または、「江戸ッ子」と二通りの表記があるので、検索するときには注意が必要。お店の看板は「江戸ッ子」とカタカナが使われているが、お店のグラスには「江戸っ子」と平仮名が使われている。

ちなみに、葛飾区亀有にも「江戸っ子」はあるが、こちらのお店は「江戸っ子」と平仮名表記である。

葛飾区には「えどっこ」が二件あったことになるが、亀有の「江戸っ子」が本店で、1966年(昭和41年)創業だから、立石の「江戸ッ子」が1973年(昭和48年)創業である。この点はインターネット情報では間違いも多くみられる。

江戸っ子の商号は江戸の「戸」が旧字の「戶」で、「有限会社江戶っ子」である。文字化けするといけないので画像ファイルを載せると、以下の通りになる。

立石 江戸っ子 閉店のお知らせ案内文

「今後は若い二人がやっていきます」の一言が印象的な立石の関所 江戸っ子の閉店告知掲示

「今後は若い二人がやっていきます。どうか末永く応援とご協力をお願いします」のフレーズがとても暗示的である。今後はどこに移転するのか?いつ移転するのか?どこへ移転するのか?これらの情報は一切書かれていない。

「今後は若い二人がやっていきます」この言葉は、50年後の江戸っ子にも通じるものである。今から50年後、立石のどこかに、江戸っ子があり、今の立石が直面している事態と同様の事態になったとしても、将来を後世に託し、未来につないでいくという意味で、同じ言葉が掲示されるのではないだろうか?

結局、立石が立石らしいのは、その中核をなした「人」という存在があったからだ。人と人のつながりは現在だけではなく、現在から、まだ見ぬ未来の人とのつながりを意味する。その人と人とのつながりの背景を演出しているのだ、街並みというアンビエントである。町、あるいは街というのは、人が暮らす場所であり、人が暮らしていくには人と人がつながっていかなければならない。そんな当たり前のことをとても大事にしてきたからこそ、立石が立石らしく、現在までずっと続いてきた理由だといえる。

2023年7月28日(金) 立石がNHKドキュメント72時間で放送される

間違いのないように初回放送日時をNHKのホームページのスクショという形で載せる。見逃し配信は、NHKオンデマンドなどでも行われるはずだが、具体的な日程は不明である。NHKオンデマンドはU-NEXT経由で視聴も可能だが、やはり、立石にまだ光がさしているうちに、リアルタイムで見ておきたいものである。

NHKプラスに登録するという手もあるが、いずれにせよ登録が必要なので、普通にリアルタイムで視聴するほうが、臨場感があって楽しいものである。

立石再開発地区では、2023年8月までは営業する店もあるので、番組を見た後で、訪れてみることも可能であるが、9月に入ると立ち入り禁止などで、呑んべ横丁に立ち入ったりすることはできなくなる可能性もある。

番組を見た後で、立石を訪れるなら、2023年8月中がオススメである。

2023年7月29日土曜日に確認したところ、NHKプラスで2023年8月4日まで視聴可能となっていた。視聴方法は、パソコンやスマホアプリになるが、仮登録で一か月は視聴可能で、その後は本登録で基本的に無料で視聴可能となる。ただし番組自体は視聴期限が1週間なので注意が必要。1週間を過ぎると再放送されることもあるが、それはかなり後になってからのことが多い。

NHKプラス
総合テレビやEテレの番組を放送と同時に、また放送後の番組を7日間いつでも視聴できます。※配信の権利の都合などで、番組のすべてや一部が配信されない場合があります。

朗報:2024年1月16日 江戸っ子の流れを受け継ぐ『ご縁球』(ゴエンダマ)が東立石にオープン

東立石とは、京成立石駅の南側に位置する一角だ。以前から、駅の北口周辺からの移転が多かったエリアだが、『江戸っ子』も名前は変えているが、『ご縁球』として東立石の一角に店をオープンした。京成立石駅から徒歩で350メートル、所要時間は信号待ちを除けば約5分の距離だから、以前の江戸っ子が、京成立石駅から徒歩120メートル、所要時間2分だったことを思えば少し遠くはなるが、余裕で徒歩圏だし、立石の南口のアーケードを通っていけば雨の日も楽である。以下のGoogle Mapに記したルートはアーケードを通らないが、アーケードを通っても距離は変わらない。

南口の再開発も予定はされているが、もし南口再開発行われたとしても、この『ご縁球』の所在地は開発区域外であることを考えると、ここで長らく営業していけると思われる。京成立石駅南口も下町情緒あふれる場所なので興味のある人はぜひ訪れてみるとよいだろう。

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